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イプシ・マーケティング研究所
<コラム&レポート> -ビジネスレポート-
家庭向けセキュリティサービス

 一般家庭への侵入犯罪増加を背景に、家庭向けセキュリティサービスへのニーズが高まっており、今後の市場拡大が見込まれている。

 家庭向けセキュリティサービスは、現在セコム株式会社がシェア8割を占め、警備会社系のほぼ独壇場となっている。しかしネットワークを用いたセキュリティシステムはインターネットと親和性があり、ネット関連企業にとって参入障壁は比較的低い。ブロードバンドや携帯電話の普及によるメール送信・画像送信の簡便化、ネットワークカメラの高機能・低価格化で、異常を検知したら警備員が駆けつけるのではなく、携帯電話にメール送信・画像送信をするだけという、新たなセキュリティサービスも立ち上がりつつある。

 新規参入企業は、既存サービスとどのような差別化を図ろうとしているのか、家庭向けセキュリティビジネスの先進事例(第1回:東京ガス株式会社「ホームセキュリティ」、第2回:三菱電機株式会社「アイテリア」)をレポートする。

第2回 三菱電機株式会社 「アイテリア」
2005.8.24
<三菱電機株式会社> http://www.mitsubishielectric.co.jp/


■ 三菱電機の得意技術「画像」で、業務用ビデオ監視機器から家庭用へ


左から多鹿氏、村上氏、藤吉氏
左から多鹿氏、村上氏、藤吉氏
 三菱電機と言えば、総合エレクトロニクス・メーカーとして、その名を知らない人はいないだろう。同社は、業務用監視カメラ分野でも実績を積んできた有力企業のひとつだ。特に業務用のタイムラプスレコーダーには20年以上前から取り組んでおり、世界の市場シェアの2〜3割をもつ。また、DVDレコーダーやテレビをはじめとする家庭用メディア機器分野での存在感が大きいのも周知の事実である。

 その三菱電機が、2004年12月、「アイテリア」という新しい家庭向け防犯セキュリティ商品を市場に投入した。そこで今回は、「アイテリア」を開発している京都製作所の方々に、「アイテリア」開発の狙いや戦略についてお話をうかがった。


■ 「アイテリア」の特徴は、「画像による敷地の防犯」と「ネットワークの利用」


 「アイテリア」には、2つの大きな特徴がある。ひとつは、カメラを用いて、住宅敷地内への侵入を検知する「画像による敷地の防犯」である点だ。これは、住居のドアや窓からの侵入を検知する一般的なホームセキュリティ機器の「住居の防犯」と一線を画する。

 商品名の「アイテリア(TM)」も、カメラの目としての「アイ」と、エクステリアの「テリア」を組み合わせたものである。カメラを家の四隅に取り付けて死角をなくしたり、勝手口や玄関他、侵入犯の侵入経路になりそうなところの監視ができる。

 「アイテリア」のもうひとつの特徴は、単体の機器ではなく、ネットワークを通じて、検知した異常を利用者に知らせることができる点だ。利用者は、敷地内でカメラが検知した異常を、外出先から携帯電話で知ることができ、カメラが捉えた画像も確認できる。

 また「アイテリア」では、こうした異常に対して、警備会社の職員が駆け付ける機械警備とは異なり、あくまでも居住者自身が自主的に対処することが前提だ。

「アイテリア」のシステム構成
「アイテリア」のシステム構成
(c)Mitsubishi Electric Corporation


 「アイテリア」には、画像や業務用のカメラ監視システムで培われた同社の技術やノウハウが最大限に活かされている。京都製作所の方々のお話からも、これらの分野の技術開発力について、自信のほどが見え隠れする。

 しかし、家庭用のカメラ監視市場は、業務用とは大きく異なる世界である。異なる顧客、利用形態、販路等をどう克服していくかが、ひとつの大きな挑戦であることはまちがいない。


■「検知」、「確認」、「威嚇」の3つの機能


 「アイテリア」には、大きく分けて3つの機能がある。ひとつめが、敷地内に設置したカメラにより、侵入した不審者の動きを「検知」する機能、ふたつめが、それを居住者に画像で「確認」させる機能、そして最後が、不審者を「威嚇」する機能である。

 ホームセンター等で売られているセキュリティ機器では、「検知」した後、「確認」のステップを省略していきなり「威嚇」するものが多いが、「アイテリア」ではきちんと「確認」のステップも踏んで、必要とあらば「威嚇」へと進むことができる。


■ 誤報対策を備えた画像による「検知」のメカニズム


 「アイテリア」の「検知」機能は、同社の業務用システムで5年前から使われている「動き検知」を家庭用に応用したものである。特徴は、画像による自動検知システムである点と、誤報を防ぐための対策を講じつつ、不審者はしっかり検知する点である。市場で主流の赤外線や熱で侵入を感知する警報装置やセンサーは、ペットや、エアコンの風で動いた紙などにも反応してしまいがちで、誤報はセキュリティ機器の最大の課題といっても過言ではない。

 「アイテリア」の画像による「動き検知」のメカニズムは、カメラに映る長方形の画像を1つの平面として捉え、その中に382個のドットを配置し、ドット単位で検知する箇所としない箇所に分けた上で、前者のみで動きを検知するというものである。例えば、風で揺れる木や交通量の多い道路の部分は検知しないようにし、侵入経路となる部分で動くものだけを検知するよう設定できる。

 さらに、不審者がどこまで侵入したかにより、検知する箇所を「注意エリア」、「警報エリア」に分けて設定することができる。この区分けは、後述の「威嚇」機能のレベルを特定したり、居住者に異常を通知するための基準となる。

「動き検知」におけるドット設定
「動き検知」におけるドット設定
:注意エリア  :警報エリア
(c)Mitsubishi Electric Corporation


 誤報を減らすもうひとつの対策として、「アイテリア」では、「動き検知」を反応させるための最少ドット数を設定できる。誤報は、犬や猫などの小動物の動きをカメラがキャッチしてしまうことにより引き起こされることが多い。「アイテリア」では、カメラに映る大きさが一定ドット数以下のものの動きを検知しないようにすることで、これを防ぐことができる。例えば、人間が10ドットであれば、犬は4ドット程度である。この場合、10ドットより小さいものは検知しないよう設定しておけば、犬や猫の侵入で検知システムが働いてしまうことを防ぐことができる。

 さらに、明暗差など微妙な環境の違いに対応するよう検知感度も設定できる。


■ 留守中・在宅中時それぞれに対応した不審者画像の「確認」


 「アイテリア」の不審者画像の「確認」方法には、「在宅モード」と「留守モード」の2種類がある。

携帯電話の画面イメージ
携帯電話の画面イメージ
(c)Mitsubishi Electric Corporation
 「在宅モード」では、カメラで不審者を検知すると、「アイテリア」の「セキュリティターミナル」内蔵の音声により、在宅者に、異常の発生場所が即座に知らされる。不審者がいることを知った在宅者は、「セキュリティターミナル」と接続されたテレビの画面で、不審者の映像をリアルタイムで見ることができる。

 (財)都市防犯研究センターの調査によれば、侵入犯の76%は外出中に侵入する空き巣だが、24%は在宅中に侵入する「居空き」や「忍び込み」である。危険なのはむしろ後者のほうで、居住者が侵入者と鉢合わせしてしまう可能性がある。侵入者との遭遇を避けつつも、カメラで確認し威嚇できることは、利用者にとって非常にありがたい。

 一方、「留守モード」では、オプションサービスの「アイテリアセキュリティサービス」に加入することにより、外出先からでも携帯メールやパソコンを用いて不審者の画像を確認することができる。

 「アイテリアセキュリティサービス」は、家庭に設置された「アイテリア」とユーザーの携帯電話を、インターネット上の同社のサーバーを経由させて結ぶサービスである。「警報エリア」で不審者が検知された場合、利用者は携帯電話上で検知前後0.4秒おきの静止画像を9コマ連続で見ることができ、遠隔地にいてすぐに駆け付けることができなくても、110番に通報することはできる。また、送信される画像は、SSL方式により暗号化されており、第三者からの覗きこみを防止するよう配慮されている。

 また侵入犯は、まずカメラ配線や通信線を断線させることも多いが、本サービスでは、ハートビートによりこれらの断線をチェックしており、線が切断された場合も、ユーザーに通知される。


■ 侵入犯の行動や心理に着目した3レベルの「威嚇」機能


 「アイテリア」は、3レベルの威嚇機能を備える。一般に、侵入犯は、狙った家が防犯対策されていたり、下見時や侵入時に誰かに気付かれたり覚えられたりした場合、高い割合で犯行をあきらめる傾向にある。そして、約8割が侵入する住居の下見をする。したがって、侵入犯に入られないようにするには、下見段階から侵入者が嫌う家にすることが大切である。

 「アイテリア」の威嚇機能は住居へ侵入する侵入犯の行動や心理に着目し、3つのレベルからなる。第1のレベルは、侵入者にカメラの設置を気付かせるという意味での「威嚇」である。この場合、カメラが侵入者を検知したかどうかは問題ではない。

 第2のレベルは、カメラが、前述の「注意エリア」で侵入者の動きをキャッチした場合である。この場合、カメラ上部に付いた赤色LEDが点滅し、侵入者の目をカメラに引き付けるとともに、カメラが侵入に気付き、その画像記録を行ったことを侵入者に知らしめることができる。

 さらに第3のレベルでは、侵入者が「警報エリア」にはいった時点で、居住者に通知する。これを受けて、居住者は侵入者の画像を確認し、在宅時のみならず、外出先からでも携帯電話の操作により、サイレンやフラッシュライト等の威嚇装置を作動させることができる。

 ちなみに、「アイテリア」のカメラは、そのシンプルかつスマートなデザインで、経済産業省の「グッドデザイン賞」を受賞しており、住宅の外観にも調和し、それでいて侵入犯に侵入を思いとどまらせるための存在感は十分である。


グッドデザイン賞を受賞したカメラ
グッドデザイン賞を受賞したカメラ
(c)Mitsubishi Electric Corporation


 上記以外にも「アイテリア」は非常に高機能で、帰宅した人が留守中に記録された画像をコマ送り的に再生したり、「動き検知」が反応した部分のみを再生したりもできる。また、外部インタフェースを通じて、市販のカメラや威嚇装置と連携させることもできる。PCとの連携については、メールで画像を送信することはできるが、動画をPCで見ることはできない。これについては、今後、考えていきたいとのことである。


■ 家庭向けとしてはやや高価格なため、利用者は比較的裕福な層


 「アイテリア」の価格は、カメラ1台とカメラアダプター、セキュリティターミナルを接続した最小構成のシステムで39万9千円、カメラ4台からなる最大構成のシステムでは、77万7千円である。また「留守モード」で異常を検知した場合に、居住者の携帯電話に画像を転送するオプションサービス「アイテリアセキュリティサービス」は、標準プラン(携帯電話2台まで)が月額1,575円(税込み)、プレミアムプラン(携帯電話4台まで)が月額2,100円(税込み)である。

 これらは、同社の業務用のシステムと比べると随分抑えた価格である。それでもなお、一般家庭にはかなり敷居が高いだろうと、今回お話を伺った方々も口にしていた。しかし、セキュリティシステムは信頼性あってこその商品で、いざというときに動かなければ大問題である。品質を落としてまでコストを切り詰めることができないというのが悩ましいところのようだ。

 現在のところ、「アイテリア」の利用者は、大きく2つの属性からなるという。一方は、シニア層で、普段は在宅だが、旅行などで留守も多い家庭である。そしてもう一方は、日中は留守で、将来「アイテリア」を子どもの見守りにも使うことを見越して導入するDINKS家庭である。そして、両者とも比較的、経済的ゆとりのある層である。またこういった層において、例えば息子夫婦から親世帯へのプレゼントや、その逆のパターンの例も見られるという。

 発売開始から間もないこともあり、「アイテリア」の販売数はわずかで、まだ計画に届いていない。しかし同社は、「アイテリア」の価格を、例えば3年の分割払いで支払い総額が35万円程度、もしくは毎月5,000円程度まで下げることができれば、急速に普及すると見ている。


■ 既存の商品のジャンルに当てはまらないため、認知度の向上が大きな課題


 前述のように「アイテリア」は、家庭向け防犯セキュリティ商品の既存ジャンルに当てはまらない商品である。通常、住宅に何か防犯対策を施そうとした場合、警備会社が提供する機械警備のホームセキュリティサービスに加入するか、ホームセンターなどで補助錠やセンサー、アラーム等のセキュリティ機器を買ってきて、自分で取り付けるかのどちらかにしか考えが及ばない。そういった消費者に、「アイテリア」のような商品の存在をいかに知らしめていくかが非常に重要である。

 同社も「アイテリア」の認知度を上げていく必要があるとの認識を強く持っている。それには、現場で営業や施工をする人たちが、いかに自らの言葉で「アイテリア」を顧客に売り込んでくれるかがカギとなる。このため、同社では、工務店向けの防犯セミナーで侵入犯罪の現状を伝えたり、防犯対策の重要性を訴求したりといったことも積極的に行っている。

 消費者に直接アピールすることに関しては、テレビCMやクチコミ等の利用も考えられるが、アピールが表面的なものに終わらないよう、方法をよく考えていかなければならないという。

 また、「アイテリア」が掲げる「敷地の防犯」は、現在のメインストリームである「住居の防犯」のホームセキュリティ商品やサービスとは直接競合しない。同社ではむしろ、すでに駆付け警備などのサービスに加入している家庭や、防犯ガラスを入れている家庭が、これらと補完的に「アイテリア」を利用することで、一層の防犯効果を期待できることを訴求していきたいと考えている。


■ 販売ルートは、ハウスメーカーと工務店


 販売ルートの開拓も、同社にとっては新しい挑戦である。「アイテリア」のターゲットは、一戸建てに住む家庭である。カメラを核にした商品であることから、マンションの共有部分につけるのは難しい。

 一戸建てをターゲットとするにあたって、新築と既築を両方カバーすべく、ハウスメーカーと、換気扇や照明器具等の取り付け工事を行う住宅設備機器の工務店の2つを主な販路とした。後者の住宅設備機器の工務店とは、家庭向けのエアコンやエコキュート、太陽光発電システムなどを扱う工務店である。これらは、同社がこれまでも、家庭用の製品を卸してきたルートではあるが、業務用の監視カメラを卸していたルートではない。

 また、「アイテリア」は、家庭向けであること、店頭に商品をおけないこと、提案型商品で導入時にコンサルティングや施工を要することなどの販売面の特性が、太陽光発電システムと似ている。太陽光発電システムは訪問販売で比較的成功していることから、太陽光発電システムを扱う系列の販売会社を通じた卸売りや、訪問販売の可能性も検討しているという。

 顧客は、新築よりも既築の家庭のほうが若干多い。「アイテリア」の価格帯からみて、新築時のほうが住宅費等の予算枠に吸収されやすく、導入もされやすい。しかし、新築件数よりも既築の住居数のほうが圧倒的に多いため、数では既築が新築を上回る。

 数で圧倒的に多い既築家庭を狙うとすれば、やはり価格がひとつの課題に違いない。また、配線が有線のみである点ももうひとつの課題で、既築住居ではどうしても施工が煩雑になる。しかし、同社では、情報セキュリティの観点から、まだ無線には踏み切れないでいるという。


■ 販売店でのコンサルティングや施工者の育成が不可欠


 「アイテリア」は、侵入検知エリアを決めるドット設定をはじめとして、設定の自由度が非常に高い。例えば、小さい住宅では「警報エリア」のみを設定し、「注意エリア」は設定しないようにすることもできる。また、テレビやDVDプレーヤーとの接続方法によっては、在宅時にテレビやDVDを見ていて玄関に人がくると、画面を自動的にカメラ映像に切り替えたりということもできる。威嚇方法に関しても、市販の威嚇装置と接続することで、ユーザーの要望に合わせ、かなり自由に設定することができる。

 「アイテリア」では、こうした設定を施工者が行う。さらに、「アイテリア」の防犯効果を最大限に引き出すには、カメラをどこにどう取り付ければよいか、威嚇をどのように行えば効果的かといった、防犯についての知識が必要となる。

 このようなことから同社は、「アイテリア」導入の成否はプランニング次第であり、販売店にいかにプロをつくるか、そしてプロのなかでも、コンサルティング、施工といった分業体制をいかに作るかが、今後の課題と考えている。防犯アナリストの梅本正行氏の協力により防犯ノウハウを伝授する工務店向けセミナーは、その取り組みの一環である。また、「アイテリア」を施工者が工事し易い商品にするということも重視している。


■ コアコンピタンスとしての画像にこだわって市場への普及をめざす


 「画像」を得意とする同社としては、今後も、業務用同様、「画像」にこだわってつくった防犯カメラシステムで、市場展開を図りたいとの考えだ。家庭用市場にさらに食い込んでいく以外に、小規模店舗等へと導入を広げ、業務用とオーバーラップさせていく方向も考えているという。

 また将来的には、例えば同社のDVDレコーダーをホームサーバーとして、「アイテリア」をホームネットワークに接続していく方向なども視野に入れている。しかし、現段階では、今後ホームサーバーやホームネットワークがどのように普及していくかを読み切るのが難しいという。

 駆け付けを組み合わせたサービスを展開していく可能性は?といった質問に対しては、そういったサービスには、利用者が抵抗を感じるのではないかという答えが返ってきた。

カメラを通じて敷地内が丸見えになるかもしれない監視サービスと、いざというときのために鍵を預ける駆け付けサービスを組み合わせて提供するには、プライバシーへの相当の配慮が必要だ。カメラで検知した異常に対しては、ユーザー自ら対処する自主防犯のほうが市場で受け入れられるのではないか、というのが同社の見解である。

 今後市場が伸びていくであろう家庭向けの新しい防犯セキュリティ市場で、「アイテリア」が新しい商品ジャンルを切り開いてくれることをおおいに期待したい。



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