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| 第3回 施工情報化協議会「建設ICカード」 |
| 2003.7.25 |
| <施工情報化協議会> http://www.ic-card.or.jp/ ■ 建設ICカードとは ICカードといえば、交通機関の乗車券やクレジットカードなどで、利用者を見かけることが増えて きた。2003年8月の住基カードの発行開始も間近に迫ってきている。しかし「建設」と「ICカード」 がどのように結びつくのか、建設業務に詳しくなければすぐにはイメージできないかも知れない。 実のところ、建設業務における課題解決に、ICカードはぴったりなのだ。 建設工事は、基礎から仕上げまでさまざまな工程を経て進められる。その工程ごとに必要な技術や作業が 異なるため、毎日のように、様々な資格や専門領域を持つ新しい作業員が現場に加わり、担当の工程を 終えた作業員が現場を離れていく。また、一つのプロジェクトに多数の会社が関わるのが常であるため、 会社の組織を横断した管理が現場事務所では必要だ。 このような事情で、建設現場での労務管理は非常 に煩雑にならざるを得ない。とはいえ、建設工事の安全確保と品質保持のためには、正確な労務管理は 重要である。 これを効率化し、同時に確実性を高めることを目的に、作業員一人一人に、それぞれの資格や専門業務を記録したICカードを携帯してもらおうというのが、「建設ICカード」の取り組みである。 建設ICカード
建設ICカードと、それを利用する施工情報システムの発展・普及を図るために設立された団体が、施工情報化協議会である。
■ 日本のICカード実用化の先陣を切った建設業界 建設業におけるICカード利用の研究は、1992年と早くから、官民連帯の共同研究として始まっている。 この官民共同研究の成果を基に、ICカード施工情報システムの標準仕様や運用ガイドラインが設定された。並行して(社)日本建設機械化協会の建設工事情報化委員会が、建設ICカードと施工情報システムの普及展開のための基盤整備と規格化を進めた。 これらの研究や試行の成果を引き継ぎ、1997年に設立されたのが施工情報化協議会である。現在、建設事業者13社、カードとシステムを供給する企業14社、合計27社の会員企業と、(社)日本建設機械化協会および特殊法人勤労者退職金共済機構という2つの特別会員が協会を構成している。 ■ 管理側にとっても働く人にとっても面倒な労務管理 多くの建設現場では、次のような光景が日々繰り返されている。 まず新たに建設現場に入る作業員は、その現場での安全確保に必要な教育を受けるため、集合研修を受ける。現場が変われば地質などの基本条件も変わり、同じ作業工程でも現場ごとの確認が必要となるからだ。このとき作業員は保有資格や作業履歴などを記入した書類と本人確認用の写真を提出し、当座の入退場に使う仮のカードを受け取る。労務管理の担当者は提出された書類を整理し、写真がついた正規のカードを後日発行し、作業員に配布する。 正規のカードは磁気カードであり、次の現場に入って作業する際は、作業員はまた同じことを書類に記入して申告し、労務管理担当者は同じようなカードを発行しなくてはならない。作業員によっては磁気カードを何枚も持ち歩いていて、現場ごとに磁気カードを受け取っては、そこでの業務が終わるとカードを捨てるといったようなこともある。 ■ 煩雑な労務管理は現場業務特有の事情から なぜこのような管理体制が必要なのだろう。建設現場は当然ながらオープンなスペースにあるため、入退の管理を厳しくしなければならないということもある。加えて、作業プロセスが多岐にわたって細分化・専門化されているという事情が大きな要因である。 現場では、工事のそれぞれの段階で、その免許を持つ者が特殊な建設機械を運転し、専門的な技能資格を持つ作業員が作業をするということが繰り返される。例えば土を掘って運ぶという場合、土を掘る作業では建設機械バックホーが、土砂を移動させる作業ではショベルローダーという機械が運転されている。2つとも操作には資格が必要で、作業の前にその建設機械を動かすオペレーターの資格確認を行わなくてはならない。 また、プロジェクトごとにコンソーシアムを組むことも多い。一つの建設プロジェクトに、得意分野に特化して事業を行っている小規模な建設会社が多数参加するのである。それらの企業は、例えばクレーンを使う作業の資格を持つ専門の作業員を育成し、その分野に特化して比較的短期間で複数の建設現場の作業に従事させるというやり方をとっている。こうして、建設現場には工事段階ごとに複数の会社が出入りし、作業員と機械は担当ごとに入れ替わっているという実情がある。 このような事情で、建設現場では、工程ごとに資格を持つ作業員の入退場管理の事務作業が複雑になるのである。 ■ 建設ICカードで入退場がスムーズに そういった現状を改善するために、ICカードが活用されている。 「建設ICカード」を発行するセンターとなるのは、建設事業を受注した元請の企業やコンソーシアムである。カード共通規格を保持・運用する管理センターである施工情報化協議会から必要な情報と許可を得て、元請事業体はその現場で作業を行う協力企業の作業員にICカードを発行する。 ICチップには以下のような情報が分類・記載される。
保険や健康診断情報、緊急連絡先も含まれるのは、万が一に備えてのことだ。個人情報を保護するため、カードにはパスワードによるセキュリティがかけられている。 業務に関わる研修の履歴や過去12件までの現場履歴は、保有する資格や免許とあわせて、作業員の技能と経験を客観的に測る目安となる。 現場によって自由に設定・利用できるフリーエリアは、事故防止のために現場によって行われている、作業開始前の血圧測定の記録などに活用されている。 現場で働く人は、一度建設ICカードを取得すれば、新しい現場で業務に就くたびに書類に記入していた資格や業務経験の申告が不要になる。また現場への入場・退場はこの接触型ICカードをICカードリーダーに差し込むだけで済む。さらに、新たに取得した資格などについても即座に更新ができ、定期的に受講する必要がある業務研修の期限が有効かどうかもここで確認することができる。 現場事務所では、その日業務に就く作業員のキャリアを瞬時に把握することができる。そこで、難易度の高い作業に経験豊富なベテラン作業員を配置する、資格を取得してからまだ日が浅い作業員には、事前に注意事項を伝えておくなど、経験や技能に応じた作業の分担と作業員の配置という労務管理が、より適確に、きめ細かくできるようになった。 現場からの退出確認も、ICカードをリーダーに差し込むだけ。管理側は、特に深い地下での作業などでは欠かせない、全員が退出したことを確認するための点呼が不要となる。 ■ 最大の効果は安全性の向上 建設ICカードの累計発行枚数は、2002年に約12万枚に達した。ある建設会社のA社は、建設ICカードによる労務管理を実施した現場では事故が減少したことを示すデータを公開している。 建設ICカード累計発行枚数 (枚)
ICカードシステム導入と安全成績 (建設会社A社)
適材適所の配置の精度向上の効果もあるが、加えて、「建設ICカードを持つことで作業員の安全意識が高まった結果ではないか」と施工情報化協議会事務局長の宮嶋俊和氏は分析する。"機械からちょっと離れるだけだから、わざわざエンジンを止めてキーを外さなかった"、"簡単な作業だからと未経験・無資格の作業員が単独で勝手にそれをやってしまった"、など些細な気の緩みが事故につながることがある。 もちろん建設ICカードの導入以前も、建設業界は事故を防ぐ努力をしてきたが、さらに、建設ICカードに資格や技能が記録されることによって作業員の自分の技能に関する自覚を高め、事故を予防することにもつながっているのだろう。 ■ 持つ人の利便性向上が建設ICカード普及のカギ 12万枚という発行枚数は、他のICカードに比べて決して低い数字ではない。しかし全国の建設作業員総数約500万人に対しては、残念ながら普及率はまだ数パーセントと低い。施工情報化協議会も、建設ICカードという共通規格への参加に、全国で約50万社という建設会社の間で温度差があることを認めている。そのような状況で普及はどのように進められているのだろうか。 施工情報化協会による普及活動のひとつは、建設現場で必要な各種の資格証明書の発行を、建設ICカードにデータとして記載するという形にしていこうという取り組みである。 現在のところ建設ICカードに記録されている業務資格に関する情報は、カードの発行手続きの際に確認・登録しているものであり、法律の関係上、資格証明書そのものとして運用できないものもある。社員証に自分が自動車の運転免許証を持っていることを申請・登録できても、自動車の運転には運転免許証を携帯しなくてはならないのと同じである。 現場の作業員のなかには、多い場合は20以上の資格を取得している人もいる。それらの資格のプラスチックカードや紙の証明書を、自動車の運転免許証のように携帯・提示する必要に備えて、ポケットいっぱいに詰め込んでいる人が少なくない。 現在、中央労働災害防止協会が、資格ごとに紙の証明書を発行していた方式を改めることを検討しているのに合わせ、施工情報化協議会は建設ICカードに証明書を組み込むことを提案している。 普及へのブレークスルーとしてもうひとつ期待されているのが、「退職金の計算」である。 建設業界で働く人は、建設業退職金共済制度を利用している。これは事業主に関わらずいつどこの現場で働いても日数を全部通算し、それに応じて退職金額が算出されて支払われる制度で、この労働日数の記録をとる方法として、手帳の代わりに建設ICカードの利用が検討されている。施工情報化協議会と共済制度を運営している勤労者退職金共済機構は、働いた日数を点数ベースで換算するシステムを実験的に開始する予定である。 ■ 多機能化でもっと便利なカードに 施工情報化協議会は、現在の建設ICカードの形式・仕様にこだわってはいない。ICチップ上に、「建設ICカード」として必要な情報を記録する8kないし16kの容量を確保できるなら、他企業・団体が発行する他の機能を持つICカードに相乗りすることもあり得る。 例えば「クレジットカード+建設ICカード」、「電子マネー+建設ICカード」など、建設ICカードが、作業員が普段の生活にも使えるカードになることは、施工情報化協議会にとっても望ましいことなのだ。 また、普及促進部会長の伊藤氏によると、必要情報はデータベースに蓄積し、ICカードにはデータベース内の情報を引き出すための本人認証の機能のみを持たせるという運用方法も検討の俎上に載っている。さらに、カードという形態にこだわらず、携帯電話や現場作業に欠かせないヘルメットにICチップを載せるなど、様々なアイディアを施工情報化協議会では検討している。 結局のところ、持つ人にとって便利で汎用性の高いものでなければICカードは普及していかない、と施工情報化協議会では考えている。まず手始めが、労務管理の簡素化、安全管理の向上、技能証明という、作業員にとって必要不可欠な機能を果たすことである。今後は、生活のより広範な場面で役立つようなカードとして機能充実を図っていくことで、持つ人の側から取得を望まれるようなカードに成長させていくことを目指している。 建設ICカードの仕組みは多くの作業員に普及すればするほど、その効果を発揮する。建設現場のさらなる安全向上のためにも、建設ICカードの利用が広がっていくことを期待したい。 |