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イプシ・マーケティング研究所
<コラム&レポート> -ビジネスレポート-
携帯電話ビジネス

"話す機器"からマルチな情報端末として"使う機器"となった携帯電話。今や、赤ちゃんからお年寄りまでを含めた日本人全体の、2人に1人がユーザーとなり、「手のひらサイズの生活必需ツール」となった。
電気通信事業者協会の調査による、2003年1月現在の携帯電話累計契約者数は7,390万人。また、モバイルコンピューティング推進コンソーシアムによれば、2003年度の携帯電話累計契約者数の予測は7,702万人である。コンテンツビジネスの市場規模は3,356億円と見られている。急速に成長中の市場を抱える、携帯電話ビジネスの現状をレポートする。

第3回 ヤマハ株式会社
2003.2.19

<ヤマハ株式会社> http://mobile.yamaha.co.jp/main/(モバイル.ヤマハHP)

■ イプシ・マーケティング研究所が実施したウェブアンケート調査「携帯電話の利用に関する調査」で「ヤマハ★メロっちゃ」が利用度No.1に


中村氏と倉持氏
中村氏(左)と倉持氏
 数ある携帯電話コンテンツの中でもビジネスとして最も成功している着信メロディ販売(着メロ)。その中でも有数の人気サイトが総合着メロサイト「ヤマハ★メロっちゃ」である。

 2002年12月に弊社が行ったウェブアンケート調査「携帯電話の利用に関する調査」では、「ヤマハ★メロっちゃ」が携帯電話コンテンツで最も利用されているサイトの第1位にランクインされた。

 2000年1月から始まった「ヤマハ★メロっちゃ」は2003年1月現在、利用者数340万人、登録曲数1万5000曲を超える規模にまで成長している。

 今回は、この調査結果を受けてヤマハ株式会社コンテンツ事業推進部モバイルコンテンツグループマネジャーの中村俊介氏、モバイルコンテンツグループプロデューサーの倉持貴志氏にインタビューをお願いした。

 快く依頼を受けた中村氏は「そうですか!ヤマハが第1位と聞いて嬉しいですね。ケータイで調査するとまた異なった結果が出ると思いますが、PCユーザーを対象とした調査なのでモバイルヤマハなどウェブの積極活動を含めて評価して頂けたものと感じます」とヤマハ着メロの人気の秘密について話してくださった。

■ 小規模スタートだったが、想定外の反響


 ヤマハ株式会社(以下ヤマハ)は、もともと携帯電話の音源メーカーとして、国内では6〜7割のシェアを誇るハードウエアベンダーである。
 コンテンツビジネスは2000年1月にEZweb対応と同2月iモード対応の着メロサイトに「ヤマハ★メロっちゃ」、同3月にJ−スカイ対応「ヤマハ★ララメロディ」の順でスタートさせた。有料化はいずれも3月からだ。「楽器メーカーの人間から見ると、単音の着メロというのは非常にチープで、もうひとつ何とかしたいという思いで、ポリフォニック(複音)の仕組みと、その配信を考えて、キャリアに提案したんです」。中村氏は当時を振り返った。


ヤマハ★メロっちゃ
ヤマハ★メロっちゃ
(c)YAMAHA CORPORATION


 サービススタート後のユーザーの反響はすさまじいものがあった。スタート前に、内心では不安も抱えて1キャリア当たり1年間で8万〜10万人、3キャリア合計で24万〜30万人のユーザー獲得を目指すという、強気のニュースリリースをしていたのだが、それが1日に1万人単位で会員が増えていったのである。目標はわずか1カ月で達成されてしまった。  

 サービス開始から尋常ではない手ごたえを感じ、殺到するアクセスにひたすら対応する日々が続いた。中村氏は言う。「とにかく最初はリソースの確保に大忙しで、サービスをもっと良くしたかったんですけど、それどころじゃなくて。押しかけるお客さんをさばくのに、交通整理ばっかりやっていたっていう感じでしたね」。  

 コンテンツ事業推進部は現在45人。その他、業務委託を含めると90人ほどの大所帯になっているが、スタート当初はわずか4、5人の体制だった。

 2000年8月にはウェブサイト「モバイル.ヤマハ」をオープンさせている。当時は携帯電話で試聴ができるアプリケーションが存在せず、ユーザーはまずダウンロードしなければ着メロを聴くことができなかった。それにはパケット代がかかる。ウェブで試聴できないかというユーザーの要請を受け、試聴ができるサイトを立ち上げた。ところがウェブ各誌に取り上げられた事もあり初日にいきなり10万ページビューをたたき出し、ウェブにも本腰を入れることになった。同12月には早くもリニューアルし、これまで3回大きなリニューアルをした。現在は月間400万ページビューを誇る巨大サイトへと成長している。


■ コンセプトは「音楽図書館」


 「ヤマハ★メロっちゃ」の特徴はユーザーの年齢層が幅広い点である。他のメジャーサイトでは、10代後半から20代前半のユーザー層が圧倒的に多いが、「ヤマハ★メロっちゃ」の場合は、これに加えて20代後半から30代といった少し上の年齢層も少なくない。多様な音楽コンテンツを提供することで、幅広い年齢層のニーズをカバーしている。


「ヤマハ★メロっちゃ」のユーザー属性

性別 年齢
ヤマハ★メロっちゃのユーザー属性:性別 ヤマハ★メロっちゃのユーザー属性:年齢


 ヤマハの着メロのコンセプトは、"音楽図書館"だ。「メロっちゃ」ではJポップなどのヒット曲を押さえつつ、それ以外のジャンルのものは"専門店舗"を充実させることによって、量的に広がりを出しているのだ。

 "専門店舗"には、オルゴールアレンジの曲を提供する「オルゴールクラブ」、クラブミュージックを専門にした「MelodicLover」、ギターが好きな人のためのサイト「ギターハーツ」、マニアックな音楽に特化した「Kクリ」、音と絵を組み合わせた「おとほん」がある。例えば「オルゴールクラブ」のユーザーの6割から7割は女性であり、「ギターハーツ」のユーザーの9割は男性である。「MelodicLover」は若者向けのクラブミュージックということもあって、10代のユーザーが非常に多い。"専門店舗"で年代、性別、音楽の好みなど、多様なユーザーのニーズにこたえることによって、ヤマハは総合着メロサイトとしての充実を図ってきた。


ヤマハの着メロ"専門店舗"サイト
ヤマハの着メロ専門店舗サイト:オルゴールクラブ Melodic Lover ギターハーツ
(c)YAMAHA CORPORATION




■ 楽器メーカーならではの音に対するこだわり


 ヤマハでは着メロコンテンツをキャリア別に制作している。各キャリアごとにプロデューサー(編集長)を置いているのだ。これは、iモードに比べて、J−スカイは女性の比率が高く、EZwebは学生の割合が多いという、キャリア毎に異なるユーザー属性に合わせたサイト運営が必要と考えているからである。一方で各曲を3和音、4和音、16和音、32和音、40和音といった、和音毎・端末毎にも制作しなければならない。1曲あたりに27ファイルを用意するそうだ。月に約200曲のペースでサイトに登録していくので、月間約5500ファイルを配信していることになる。

 コンテンツは技術サイドで作成、検証、テストダウンロード、その後編集サイドに納品され、そこでさらにチェックし本番環境にアップロードされる。2カ月先までの大まかな制作スケジュールがあり、若干の調整はあるものの、それにのっとって1週間単位でコンテンツが登録されていく。また、緊急で制作しなければならないコンテンツを、朝から取り掛かり、昼の3時ごろには登録を完了させるような、特急チームも存在するという。

 今後、コンテンツを提供する側としては、技術進歩の速い携帯電話で、クオリティの高いコンテンツをいかに早くローコストで作れるかが勝負になってくる。

 プロデューサーの倉持氏は言う。「もともと電子楽器向けの演奏データなどをずっと作ってきたような人間がクリエーターとしてやっているし、例えばFM音源のような音源の方式もヤマハが開発して業界を引っ張ってきたので、その音源をどのように使ったらいいかということに関しては熟知しています」。とはいえ、こだわりが過ぎて、音に関してひとりよがりになることのないよう、四半期ごとにユーザーのグループインタビューを行い、流行やユーザー嗜好の変化を調査することによって、コンテンツ制作に活かしている。

 ヤマハ最大の強みは「着メロというのは使い捨てのものだという認識はあっても、やはり音楽だからしっかり作りたいという意識を、メンバー全員が共有している」という点である。技術系のメンバーも、音楽のロジックでは割り切れない部分をよく理解して、着メロを単にデータとしてではなく、一つの音楽ととらえてコンテンツの品質向上に力を注いでいるという。
 


■ モバイル・マーケティングのチャネルとして活用


 携帯電話が普及するにつれ、人気サイトは新しいメディアとして注目されるようになった。ヤマハの調べでは、ユーザーのアクセスが活発な時間は昼休みの12時台と、夜8時〜深夜1時の時間帯だ。夜の連続ドラマが終了する9時54分、10時54分などにはアクセスが集中するという。また、日ごとで見ると、CDの新譜が多数リリースされる水曜日と、土曜、日曜日にアクセスが多い。月単位で見れば、月初めの1日にアクセスが集中する。ユーザーがダウンロード可能な曲数を、前の月に使い切ってしまっているからだ。ヘビーユーザーであれば、ヤマハ以外の着メロサイトも掛け持ちしているという。

 ユーザーへの告知手段としては当初、「メニューリスト」にサイト名が掲載されていただけで集客は事足りていた。ところが参入業者の増加にともなって、次の手段を考えなくてはならなくなった。バナー広告やテキスト広告である。iモードであれば「週刊iガイド」といったサービス紹介コーナーにサイトを取り上げてもらうことによって、ユーザーへの認知と集客アップが狙える。七夕やクリスマスには、それらにちなんだ着メロを無料でダウンロードできるようなイベント特集を企画し、ユーザーへサイトをアピールした。

 その結果、バナー広告のクリック率は最高で46%にも上ったという。会員向けにはメールマガジンも発行している。ユーザーは約30万人。ユーザーはメールの内容に興味を持てば、さらに友人にそのメールを転送する。転送が転送を呼び、クチコミならぬ「メールコミ」によってサービスの認知はさらに高まっていく。

 特に着メロサイトはアクセス数、バナーのクリック率の高さから、モバイル・マーケティングのチャネルとして熱い視線を浴びている。それを利用して、ヤマハは独自にアンケートシステムを作り、コンテンツホルダーが望むアンケートを実施、その結果を提供する代わりに素材を提供してもらうということも行っている。

 他のコンテンツホルダーとの連携による告知も行っている。例えばある映画のロードショーがある。映画配給会社にとって、着メロサイトは集客力の高い広告媒体として有効と考え、来日した出演俳優の着信ボイスや映画の待受画像を提供する。ヤマハはそれらとテーマ曲の着メロを1セットとして、無料ダウンロードのキャンペーンを行う。配給会社にとっては映画のプロモーションにもなるし、同時に行われるアンケートによってユーザー情報を得ることができる。ヤマハにとっても、このような企画を行うことによって、さらにサイトがユーザーに認知され、会員数の増加につながるのである。



■ ユーザーの好みの細分化 「切っても切れないファンクション」として着メロを考える

 
 ユーザーの着メロ利用の仕方にも変化が起きている。ヤマハの分析では通話着信の着メロを使用している人が、実は少ないというのだ。電車の中や授業中、会議中で着メロを鳴らすことはできないからだ。逆にニーズが高いのがメールの着信音だ。夜中に音が鳴っても驚かない、オルゴールのようなやさしい音が受けるのもそのせいではないかと中村氏は分析する。さらに最近は目覚まし代わりに着メロを利用するユーザーが増えていることが、着メロ利用の大きな変化だという。

 また、これまでは着信の際に好きなアーティストの曲が鳴ることで満足していたユーザーが、今度はとにかく起きられる目覚まし音、仕事中に鳴っても不快にならない音が欲しい、といった依頼をするようになっているという。

 携帯電話がますます生活に密着し利用シーンが多様化した結果、膨大な量の登録曲を使い分けたり、独自の使い方をしてみるなど、ユーザー自身が新しい使い方を開発しているのだ。ギターの着メロを、ソロのパートがすばらしいからぜひ聴いてもらおうと配信したところ、ユーザーには音の加減が目覚ましにちょうどいいと受け入れられていたりするなど、制作者が聞いたらちょっとがっかりするような使われ方も中にはあるらしい。

 「着メロっていうのは要するに夕刊紙なんだと思います。夕刊紙っていうのは、買って1時間くらいで捨てられる運命にありますよね。着メロもそれと同じで消費されているなあと言う感じがしますよ。メモリに取っておきたい曲もあるが捨ててしまう曲も多い。だからどんどん曲がメモリから入れ替わっているわけですよね」。中村氏は着メロの性質をこう表した。

 さらに、着メロがこれほどまでに発展、成功した要因についてはこう即答した。「待受画面と着メロというのは、電話とは切っても切れないファンクションだからでしょう。呼び出し音や待受画面を自分流にカスタマイズできる。服やアクセサリをつけたりするのと同じで、携帯電話を持ったら自分流にカスタマイズしたいわけですね、ユーザーは。ファンクションをカスタマイズする、できる、ということに尽きると思います。だからコンテンツといっても、私はファンクションのコンテンツ化だと言っているんです」。

 ファンクションのコンテンツ化として、今後は、アラームやアラート(警告音)、キーアサイン(ボタン確認音)などへの進出、PCの「モバイル.ヤマハ」と携帯電話の「メロっちゃ」とのシームレスな融合、さらにはテレマティック(自動車内における通信)分野への展開も視野に入れている。

 クオリティアップの点では、着信メロディと、着信ボイスの融合コンテンツを考えている。曲の中で、サビの部分は人の声で歌うといったようなものや、CMの印象的なセリフが最初に入って、その曲が流れるというようなものだ。クオリティを高いレベルで維持しながら、常に新しいものを開発するべく日々企画を練っているという。


■ 海外進出と第三世代(3G)への展望

 ヤマハは2000年11月台湾での着メロサービス『Melo-Ring 美麗鈴(メロリン)』を皮切りに、2001年1月には中国・上海で、その後もオランダ、スペイン、ドイツ、香港、2003年1月には中国・広東省でのサービスを始めたが、順調に見える海外進出も、成功に導くまでには時間がかかりそうだ。

 海外の場合は、携帯電話キャリアと端末機器メーカーの立場が対等なため、キャリア主導で端末の機能が一斉にバージョンアップすることがない。そのために単音・モノクロの端末が複音・カラーのハイエンド端末へと切り替わるスピードも遅い。さらに、ハイエンド端末の価格が日本と比較すると格段に高く、大半のユーザーは低機能の端末を利用している。そのため、一気に着メロが浸透していかないのだ。

 「しかし」、と中村氏は言う。「人間が本質的、本能的に求めるものというのは、国境を越えて共通だと思っていますので、いずれ日本のように着メロが普及するはず。その時にきちっと果実がとれるように、少し時間はかかるけれども着実に一歩一歩やっていきたいと思っています」。

 翻って国内に目をやると、携帯電話は第三世代(3G)にシフトしてきている。

 「第三世代に移行して通信速度が速くなっても、パケット代が今のままではみんな破産してしまいますから、パケット代が画期的に安くなるとか、限りなく常時接続的なものにするとかしないとダメですね。定額的なサービスが求められると思います。そうなると、今みたいにパケット代のことを気にしてビクビクしながら使わなくて済むようになる。その時に新しいコンテンツができると思います」。

  今のところ、ユーザーは余計なパケット代を払いたくないために、目的の着メロをダウンロードしたらすぐサイトから離れるのだそうだ。豊富な品揃えを誇るヤマハにとって、それは不本意なことだ。だからパケット代が安くなる、もしくは定額制に近づいて、パケット代を気にせず使えるようになると、もっと多くの面白いコンテンツを提供できる。それこそが3Gの最大のメリットではないかと言うのだ。

 動画の配信には懐疑的だ。2秒も待てないケータイユーザーが、30秒の動画を15秒もかけてダウンロードするとは思えないからだ。

 端末が3Gへシフトするのであればなおさら、ストレスなくダウンロードできて、今のサービスよりかなりクオリティの高い、満足のいくようなものを提供することに力を入れていくのだという。

 将来的なサイトのイメージとしては、「ソムリエ」、「コンシェルジュ」のキーワードを挙げる。自分で好きな曲を検索してダウンロードするようなアクティブなユーザーは一部である。だから大多数の、自分は何が欲しいのか教えてほしいと思っているユーザーに対して、彼らが潜在的に求めていた音楽を提示することが可能であれば、着メロをただ売るだけではなく、ユーザーをより満足させることができ、彼らと長く付き合うことができるのではないかと考えているのだ。





 携帯電話の端末出荷数の伸びが減少し、日本音楽著作権協会(JASRAC)の著作権使用料収入の増加率にもブレーキがかかり、着メロ市場も飽和状態にあるといわれる現在、ヤマハのコンテンツプロバイダーとしての次の一手に注目していきたい。



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