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イプシ・マーケティング研究所
<コラム&レポート> -ビジネスレポート-
現場発想主義を貫く e-ビジネス
急速な市場拡大を期待されながら、足踏み状態のB to B EC。普及のカギを握るのは、マーケット現場のコアとなる情報をうまくビジネスに結びつけた事業者ではないだろうか。大手企業主導やシステムベンダー主導ではない、現場のニーズ主導で起ち上げた、注目のe-ビジネスを紹介する。
第3回 株式会社エヌシーネットワーク「NCネットワーク」
2002.1.31
NCネットワーク http://www.nc-net.or.jp/

■中小製造業向けに受発注の可能な情報交換サイトを運営


  株式会社エヌシーネットワークは、金型や板金加工、金属プレスなどの中小製造企業が情報交換できるビジネス・コミュニティサイト<NCネットワーク>を運営している。「NC」(Numerical Control =数値制御)とは、主に工作機械などに使用されている言語だ。サイトには、無料で登録・検索できる工場データベース「EMIDAS工場検索エンジン」をはじめとして、受発注ができる各種掲示板、製造技術に関するQ&Aデータベースや中古工作機械の検索・査定・売買コーナーなど、中小の工場がフルに活用できるサービスが満載されている。2001年12月にはメイン・サービスである「EMIDAS工場検索」の登録会員事業所数が10,000社を突破した。

 総勢27名のスタッフで切り盛りする東京・神田のオフィスで、社長の内原康雄氏にお話を伺った。


■自社HP立ち上げで遠く長崎から新規の引き合い



内原社長
内原社長
 中小製造業界は、大企業のリストラで下請けへの締め付けが厳しくなっているのに加え、安価な輸入品に市場を奪われるなど厳しい環境下にある。「とにかく新しい仕事が欲しい!」との思いはいずれの経営者も同じだが、日本の製造業界は縦系列の世界であり、系列外からの新規の受注は大変難しい。

 社長の内原氏は、葛飾区にあるプレスメーカー「内原製作所」の3代目。大学を卒業後、他のプレスメーカー2社を経て、家業の内原製作所に入社した。その6年後の1997年、内原氏は当時世の中で話題になり始めたインターネットを仕事に活用できないかと、見よう見真似、自力でホームページを作ってみた。最初は半信半疑であまり期待はしていなかったのだが、サイト開設から間もなく、遠い長崎から1本の引き合いが舞い込む。これが、「もしかしたら大きな変化をもたらす力になるかもしれない」と、内原氏のインターネットへの関心を大きくふくらませた。

 そこでオンライン・ショッピングについての本を読んだり、インターネットで検索してみるなど情報を真剣に集め始めた。

 ところが、なかなか製造業者がビジネスに使えるサイトに出会えない。中小の工場が関わるモノづくりの業界は、一般ユーザーを対象とするオンライン・ショップや検索サイトと違い、売り手も買い手も限られる非常にニッチな世界だ。B to Cと同じやり方ではだめらしい。では、どうしたら製造業の人たちに重宝な仕組みが作れるだろうか?

 内原氏の行き着いた発想は、"工場がたくさん集まっているサイト"の構築だった。製造業の中でも特に図面をみてモノを作る人たち、すなわち自動車部品や家電、建築や雑貨用の資材・部品を製造する中小の工場は、受発注の情報ニーズを同じくする。縦系列の枠組みを超えた、横の連携の取れるネットワーク内であれば、新たな相互取引が可能になるだろう。また、集積された情報は外部にもオープンであり、新規の発注先を探す大手企業からの受注機会も増えるに違いないと考えたのだ。


■情報交換のイントラネット構築を経て<NCネットワーク>を設立



 1995年頃から、東京都や業界組合の指導のもとで、同業者のインターネットを利用したネットワーク作りがいくつか立ち上がりつつあり、内原氏はそういった取り組みの情報化委員として参加していた。しかし、全国の中小業者を集めようというサイト構想の提案はなかなか認められない。東京都の指導であり、都内の業者だけが集まるHP作りが主眼のプロジェクトであったためだが、これではせっかくのインターネットの特性が生かせないと残念に思った。

 以前より、若手経営者仲間との交流でいろいろなアイディアを話し合っていた内原氏である。こうなったら自分達で作ってしまおうと、まず同じ中小製造業9社の仲間に声をかけ、東京都の助成金支援を受けて、CAD/CAMデータの送受信のためのイントラネットを立ち上げた。ついで、このネットワークを拡大した形で1998年2月に「エヌシーネットワーク」を法人として設立し、全国規模の工場ネットワーク化を目指すこととなった。

 システム構築は、データベース構築に関する知識のあるソフト関連の経営者仲間がかってでた。現在、<NCネットワーク>の取締役に就任している工藤純平氏である。「工場データベースは結構簡単にできるという話を聞いて、それなら<NCネットワーク>をやってみよう!と思いました。構想からスタートしてその実現のために手作業もする、という苦労はしたくなかった。登録や情報の書き込みは、サイト上で記入してもらった内容がそのままデータベースに取り込まれる形にしようと最初から考えていました」(内原氏)。

 こうしてスタートした<NCネットワーク>は、助成金の支援も受けたが、この時点での収入源は広告料のみ。より多くの中小製造業者に参加してもらうため、データベースへの登録は無料としたためだ。

 データベース「EMIDAS工場検索」は、98年4月のサービス開始から99年10月に登録会員数1,000社になるまではなかなか勢いがつかなかった。YAHOO! などいくつもの検索サイトに登録申請し、リンクも張れるだけ張って、ようやく2,000社までこぎつけたのが2000年5月。そのころNHKの番組で<NCネットワーク>が紹介されるという幸運があり、これを機に登録が倍増。その後は一日に10〜20事業所のペースで増え続け、2001年12月に10,000社を達成している。


EMIDAS登録会員数の推移

■ネット上に日本最大規模の工場が出現!


 サイトの核である「EMIDAS工場検索エンジン」に登録できるのは、資本金3億円以下または従業員数300人以下の中小製造事業所。加工分類、工場の所在地域、社名、キーワードから発注先を効率よく検索することができる。取引したい工場を検索した後、実際の受発注のやり取りや手続きは当事者間で行われる仕組みだ。登録も検索も利用は無料。

 検索結果ページでは、工場規模の大小などに関係なく、すべての工場の情報が同一フォーマットで提供される。検索する側も情報を比較しやすい。ネット上に、金型あり、鉄材あり、メッキ加工ありのひとつの巨大な仮想工場が存在しているといえる。登録10,000社の総売上は自己申請されている額だけでも約4兆5千億円、「近いうちにトヨタの総売上(平成13年3月期単独で約7.9兆円)を追い抜くのが目標です」と内原氏は意欲を見せる。

 登録企業のビジネスチャンスが拡大していることも目に見える数字であらわれている。 NCネットワークでは、EMIDAS登録会員を対象に定期的にアンケートを実施しているが、2001年8月〜9月実施の最新データ(有効回答:1309社)では、過去1年間にインターネットを通じての新規受注があったと回答した企業426社中、新規取引先数について「5件以上」と回答した企業が20%、多いところでは「100件以上」という回答もある。過去1年間の受注金額をみると、全体的には「10万円〜100万円」(42.3%)、「100万円〜1000万円」(32.9%)に回答が集中しており、登録会員数の増加が受発注増加にそのまま直結している。中小製造業界にとっての営業ツールとして着実に浸透してきているといえよう。

 例えば下請け専業だった工場が新規に自社製品の開発に着手した場合、従来であれば部材の調達先を探すのが一苦労だ。しかし、EMIDASを利用すれば条件に合った発注先をすぐに探し出せる。

 また、海外の取引先とのやり取りが発生しているのも、インターネット上のEMIDASならでは。韓国の会社が、東京下町にある従業員20人の町工場にいきなり発注してきたりする。サイトは今のところ日本語のみの提供だが、現在50社の海外業者が登録している。



■製造現場の技術情報を掲示版でやり取りして共有



 <NCネットワーク>のサイトには、情報交換できる掲示板が多数存在する。金型、機械加工、CAD/CAMなど16に分類された「モノづくりコミュニティ掲示板」、製造業に関するQ&A集「技術の森」、それから自社Webサイトを開設している人のためのコミュニティ「NC Web マスターズコミュニティ」などだ。中古機械の検索・査定・売買のページ、求人求職情報コーナーもある。最近サイトに登場した「実践金型辞書」も面白い。製造業の現場でしか使われない単語がずらりと並んでいるが、すべてユーザーの書き込みによるもので、特に工場に入ったばかりの若手には重宝する。

 「技術の森」は、「技術情報の掲示板のログを見ていてやりたくなった」(内原氏)という製造技術に関するQ&Aのデータベース化である。もちろん単語検索で過去のログも見ることができ、本や雑誌をひっくり返すよりもずっと早く手軽に欲しい情報が手に入る。製造業では専門が細分化されているため、現場でやっている人にしかわからない、非常にニッチな技術が多い。しかも、これまではそれを発信する場も手段もなかった。そこで、工場の先輩から後輩に受け継がれてきた現場のノウハウや技術をネットワークで共有しようという考えからスタートさせた。内原氏によれば、「技術の森」は1年後にはおそらく日本最大の製造技術に関するデータベースになるだろうとのことだ。現在の蓄積データはトータルで約2000タイトル。ブロードバンドで、より高速大容量のデータ送信が可能になれば、図面や絵もどんどん掲載できユーザー の活用度がさらに高まるだろう。

 こうした、いわば「現場の知恵やノウハウ」をネットワークで共有することにより、「困った時の<NCネットワーク>」という存在になろうという目論見である。特に現場に入ったばかりの若手には仕事上必要で便利な情報が蓄積されており、彼らのアクセス増加が期待できそうだ。
 

■メインの収入源は、調達代行サービス「NCネットワーク加工事業部」



 設立当初から検索エンジンへの登録と利用は無料としており、今後もその方針を変える予定はない。現在<NCネットワーク>の主な収入源となっているのは「NCネットワーク加工事業部」とネーミングした有料の受発注仲介システムである。 「サイトを運営してきた経験から、我々が仲介に入る方がユーザー間の直接やり取りよりも効率的なケースも多いことがわかった」(内原氏)。例えば、発注業者が一度に多品種の部品を急ぎで揃えたい場合、すべての部品の発注先を検索エンジンで探し、それぞれ別個にコンタクトを取るのでは時間がかかり非効率的だ。やり取りしてみたが結局話がまとまらないという場合も多い。そのような時、多くの工場の得意分野や設備などを熟知している仲介者がいれば、交渉はずっと早くまとまるはずだ。利用者の利便性も増し、<NCネットワーク>も手数料収入を期待できる。こうして、2001年2月に「NCネットワーク加工事業部」がスタートした。

 一口に仲介システムといっても、大手メーカーの購買代理(部品全部をNCネットワークが揃えてくる)、中小工場が自社の新規製品を企画・製造するといった業務拡大の際の部品調達請負、ベンチャーやファブレスメーカーの製品企画から部品調達・製造に関するコンサルティングなど、実際にはいろいろなケースがある。手数料はケースバイケースの交渉によって決められている。

 2001年11月には、富士通購買本部と提携した。「NCネットワーク加工事業部」が富士通購買本部から加工品調達を請け負うほか、富士通の提供する資材ネット調達サービス「ProcureMART(プロキュアマート)」に参加することにより、富士通以外の企業からの発注も受ける。また、富士通購買本部がEMIDAS検索エンジンを利用して直接発注先を検索・発注することも可能だ。「NCネットワーク加工事業部」の業務が拡大するうえ、会員10,000社の受注機会が増える有意義な提携といえる。


 その他、<NCネットワーク>では以下のような有料サービスを展開中。採算のとれるビジネスとして成長させるために、より多くの可能性を探るとともに、登録会員の利便性アップを図っている。


● 「受注したい」「発注したい」情報を掲示板書き込みとメール返信でやり取りする「モノづくりビジネス掲示板」
「EMIDASパートナー」という有料会員制(登録1万円、月額3千円)を設定。受注したい情報の登録と、掲載されている発注情報に対する応募はパートナー会員にならないとできない仕組み(情報閲覧は無料の一般会員も可能)。現在パートナー会員になっているのは一般会員の1割弱で、約1000社。書き込みに対し半日で10件もの応募があるなど利用は活発。なお、「EMIDASパートナー」として登録すると、「EMIDAS検索エンジン」の検索結果ページで上位に表示されるなどの特典もある。

● 中古工作機械の検索・査定・売買コーナー「NC Detector」
2001年2月スタート。2001年12月の取引発生額は約2千万円。手数料を徴収。

● 鋼材調達・販売サービス「EMA(イー・マテリアル・オークション)」
2001年6月スタート。中小企業向けの小口鋼材のオークション形式調達サービス。二次、三次問屋が間に入る従来の取引に比べ、会員企業は仕入れ値が安くなり、売り手は販売チャネル拡大のメリットがある。手数料はEMAから買い手に対する販売価格に含まれる。現在の登録会員数は50社。

● 3次元データ変換「3Dshare-J」
2000年暮れにスタート。複数のデータ変換エンジンを従量制で利用できるASPサービス。異機種CADシステム間でデータを交換する場合、データ欠落などの諸問題があるが、中小企業ですべての変換ソフトを所有するのは不可能な場合が多いため、需要は大きいと思われる。料金は元データのファイルサイズによる従量課金制。



■"中小製造業者"に的を絞って成長したサイト、今春には黒字化



 <NCネットワーク>がこれだけの会員数を誇るサイトに成長した要因は、"とにかく、図面をみて仕事をする中小製造業者"に的を絞ったことにあると内原氏は考えている。「これは笑い話ですが、たとえば受発注交換会に出席しても隣にパン屋さんが座ったらどうしようもないでしょう? 名刺交換しても取引はうまれない」(内原氏)。情報交換のサイトを作っても、そこにビジネスと直結しない情報が混じっていれば次第に利用されなくなるのが現実である。現在の月間ページビューは約180万。しかも、ページビュー全体の6割は経営者との数字が、「ビジネスに使えるサイト」と認識されていることを証明している。

  コンテンツは、内原氏が率先してアイディアを出してきた。業界の経験がなければ思いつかない、また思いついてもできないサービスばかりと自負している。自分が実際に仕事をする上で必要だと感じた、こういったサービスが欲しいと思ったことを実現する。すなわち、現場のニーズ主導で立ち上げたサイトだからこそ、同じ業界の人たちの支持を獲得しているといえよう。

 「NCネットワーク加工事業部」の業務拡大と各種有料サービスの導入、会員増加効果による受発注の活発化などにより、今年春の黒字化のめども立った。「富士通との提携など大手が関わるB to B案件はやはり大きいですね」(内原氏)。

 参加会員の中でも特に30代、2代目や3代目の経営者の積極利用が多い。インターネットやパソコンを当たり前のように使いこなす若い世代が増えていくにつれ、サイトの利用もますます活発化するだろう。

 先の見えない閉塞感の中でも参加者になんとか希望をもってもらいたい、そしてネットワークの中から第2第3のソニー、ホンダになるような元気な企業が飛び出してきてほしい、というのが内原氏の願いだ。現場発想主義のe-ビジネスで日本中小製造業のスタンダード・プラットフォームに成長していくのか、今後も要注目の<NCネットワーク>である。


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