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イプシ・マーケティング研究所
<コラム&レポート> -コラム-

IT政策の課題とシンクタンクの役割
株式会社情報通信総合研究所 特別研究員
イプシ・マーケティング研究所アドバイザー
小澤 隆弘
小澤 隆弘
<プロフィール>
 政府は「IT新改革戦略」を打ち出して、「いつでも、どこでも、誰でもITの恩恵を実感できる社会」の実現を目指している。

 このスローガンの裏には、ITは確かに日本の経済社会に浸透しつつあるが、国民はまだその恩恵を実感できずにいるという認識がある。

 ITの構造改革力を追求して、それによって日本社会の抱える課題を解決していこうというのだが、その目線の高さと実際に目標として掲げられた施策のレベルの差はあまりにも大きい。医療、環境、安心・安全、電子行政などの分野へのITの活用推進が目標として掲げられているが、これらが達成されたとしてもそれで国民一人ひとりがITの恩恵を実感できるといえるのだろうか。

 情報通信白書を読んでも将来の安全で豊かな情報経済社会の姿が浮かんでこない。

 ブロードバンド・インフラの整備状況と価格面などでの利用のしやすさは世界の先頭を走っているというものの、それによって産業活動や社会生活がどのように向上したというのだろうか。

 インフラ整備における地域格差、いわゆるデジタル・ディバイドを解消することが情報通信政策の目標として掲げられているが、デジタル・ディバイドを解消したら地域住民にどのような恩恵が与えられるのかという絵は全く描かれていない。どのようにブロードバンド・インフラが使われるのかというビジョン無しにインフラ整備を進めることは本当に必要なのだろうか。

 ブロードバンド・ネットワークというモノを作る仕事は、お金と技術があればできる。しかし、その活用方法を生み出すには知恵が要る。そして、その知恵を出すのは政府ではなくて、企業であり国民である。

 日本人に創造性が欠けているとは思わない。機会さえ与えれば優れた商品、サービスが生まれてくるに違いない。しかし、現状は、日本人全体が大企業病に罹ってしまったように思えてならない。 出る杭は打たれるということわざがあるが、未だにそのことわざが生きているのだろうか。誰もが上を見ながらの仕事しかしない。自分がトップになってやろう、トップの気に染まない新しい発想を生かそうという気概が見受けられない。そこからは新しい商品やサービスは育ってこない。

 大企業を見てもそのトップは60代、70代の老人が多い。老人だから発想が古いとは言わないがやはり若者の発想と異なることは明らかである。成功体験に縛られない若者の発想が世の中を変えていくのであるから、若者が世の中を動かすような仕組みを作っていかなければならない。

 アメリカは確かにブロードバンドの普及や利用料金などでは韓国、日本などに遅れているが、インターネットの活用という面では次から次へと新しい商品、サービスが生まれており、これらを生み出しているのはやはり大学院を出たばかりといった若い世代である。

 光ファイバーネットでは先行する日本だが、本当に価値を生むのはネットそのものではなくて、その上で展開されるビジネスである。その面で日本はアメリカに大差をつけられていると言っても過言ではない。

 今、政府や企業に求められているのは、若手の発想を生かす仕組み作りとそこにお金と情報と人材が集まる仕組み作りである。ホリエモンや村上ファンドは道を踏み外してしまったが、成功するために裏街道にもぐりこまなければならないような経済はどこかおかしい。

 経済の仕組みと並んで変えなければならないのが教育の仕組みである。50年一日のように変わってこなかった初等、中等、高等教育を変えなければ元気な、知恵のある若者が育ってこない。

 結局、ITをうまく使えるかどうかはITの問題ではなく国のシステムの問題なのだと思う。

 国家、政府の問題と大風呂敷を広げたが、それはわれわれの力ではどうにも動かしようがない。われわれ自身としては何をすればいいのだろうか。

 基本は、世の中の一歩先を行っているアイデア、知恵を他人より早く見つけ出すことだろう。自分で創り出せれば言うことはないがなかなか難しいので広く浅く世の中を見渡して将来のニーズを先取りしたアイデアを見つけ出し、それに参加するとかそれと一味違うモノを自分で仕掛けるとか、将来の人間の指向を先に読んでそれを引き付けるための仕掛けを作ることが成功の鍵ではないだろうか。

 これは大企業の中にいる人間にはなかなか難しい。個人で動ける幅が非常に狭いからである。

 世の中の先を見通す目、感性を売り物にするのがシンクタンクであり人文系の研究所である。

 研究員数百人といった大研究所はこういった探索には向いていない。個人の感性を大切にしないからである。大研究所は時間と人手のかかる作業を要領よくやってもらうのに適している。彼らはそういうノウハウを持っている。しかし、先を読む力は大組織からは生まれてこない。それは一人ひとりの感性がぶつかり合って火花を散らすような環境から生まれる。

 そうした自由闊達な雰囲気、環境を持ったシンクタンク、研究所はせいぜい数十人までの規模だろう。イプシ・マーケティング研究所にはそういう役割を期待したい。

 eマーケティングの世界はこれから大きく広がることは間違いない。そこで成功するには何が必要なのか鋭い人間観察から未来のeビジネスの要件を探って欲しい。

 日本はシンクタンクや研究所にお金が回るシステムが不十分である。未来のクライアントの皆さんには短期的な成果を求めないフリーな資金を供給していただくようにお願いして雑文を終わることにしたい。

2006/8/24

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