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イプシ・マーケティング研究所
<コラム&レポート> -コラム-

ユビキタス・ビジネス・
ソリューションアンドサービス
日本情報通信コンサルティング株式会社 取締役
井上英也
井上 英也
<プロフィール>
 1. はじめに

 情報を社会・経済活動に駆使して豊かな結果を導き出そうとする行動様式は、近年のIT技術の活発な開発やその利用方法の急速な進展と相俟って、日常生活の隅々まで浸透してきています。情報社会の成熟の一歩手前まで進化してきているといえるでしょう。

 このことは、社会や企業を構成している人達全員が各人の所属する組織の中で、広範囲に情報を収集したり、また主体的に情報を発信する環境がかなり整備されていることを意味しています。個人にとってはライフスタイルを充実させる手軽な道具を手にいれることになりますし、企業にとっては、多様な情報に基づいて斬新な事業を起す絶好の機会を得ることになります。

 幾多の環境変化をつぶさに見ますと、特に三つの事象が目を引きます。

(1) "The Internet"が世界中に浸透し、しかも使い込まれることにより絶え間なく進化しており使い勝手がますます向上している。
(2) "The Internet"上に展開される人類の知恵が結集されたWWW形式のデータベースが加速度的に増加し、人々にとって不可欠な情報源となりつつある。
(3) IPネットワークを介して接続可能なビジネスソリューションが次々と提案され、企業内及び企業間の業務プロセスの高度な結合が始まり、企業活動の生産性を高める重要な道具立てになりつつある。

 このほか、個々の事業領域においても突出した情報を取り扱う環境変化が発生しており、不況下にもかかわらず新しいビジネスや技術開発のアイデアが次々に創出されています。情報閉鎖社会から個々人の創造意欲が真に開放されつつあるといえるでしょう。

 この状況の中、何処にいても、どのようなソリューションにもアクセスでき、場合によっては即時即興的に問題解決プロセスが実行できればどんなに便利なことでしょう。これを実現する一つのアイデアとしてUbiquitous Business Solutions and Services(略称UBS/S)という、お客様として消費者ではなく情報化に関する課題・問題を多く抱える企業を対象とした仮説的ビジネスを提唱したいと思います。


2. Ubiquitous Business Solutions and Services(UBS/S)の概念


 UBS/Sの概念を敢えて一文節で説明しますと、

「顧客企業が、事業活動の場所や局面の如何にかかわらず、経営上の問題・課題の解決に当たり、ネットワークを介して世界中に遍在する情報(データやノウハウも含む)を素早く入手でき、かつその情報からコンピュータを用いて的確な解決策を導き出すことができる仕組みやサービスを提供すること。」

 になります。しかしこれでは何のことか分かり難いので、もう少し分解して説明します。

 Ubiquitous(ユビキタス):
 辞書には「至るところにある、遍在する」とあります。UBS/Sでは如何なる場所からでも、如何なる端末機からでも、状況に応じてネットワークを介して接続可能なデータベースやビジネスソリューション(ビジネスサービスやユーティリティサービスなど)にアクセスすることができることを意味します。ユビキタスはUBS/Sビジネスのお客様側の利便性を表現しております。


 Solution(ソリューション):
 ソリューションとはUBS/Sを活用される企業の経営上の問題・課題を、情報を駆使することで合理的に解決することを意味します。コンピュータと通信手段の急激な進歩は、企業が情報通信システムを単なるコスト削減の道具に活用するだけでなく、経営上の問題・課題を解決することを十分可能にせしめてきています。これまでにMIS、DSS、CIM、SISなどと呼ばれる経営支援情報システムがソリューション概念として提言されかつ一部の大企業で活用されてきました。現在では、ERP、CRM、SCM、e-Commerce,e-Marketplace,XML‐EDIなどの名称で呼ばれる新しいソフトウエア・パッケージが経営課題のサブセットを解決するソリューションとして提供されています。

 UBS/Sではこれらのパッケージソフトウエアを活用して(単独では勿論、結合することも含め)新しいソリューションを創出することを容易にせしめることを目指します。さらに各種データベースや情報サイトを結んだ新しいソリューションを合理的に実現することも目指します。

 一方UBS/Sビジネス事業者の立場でみると、ソリューションを実現するプロセスとしては、課題抽出、マーケティング、業務分析、業務設計、適用技術評価、設計(ハード、ソフト)、物品調達、建設、保守、運用などがあり、これらのプロセスを如何に効率良く実施するかがビジネスとしての成否を決める鍵となります。そのために私どもは従来のソリューション技術を進化させた手段を開発しているところです。


 Service(サービス):
 一般的には自己の所有する資産を活用して他者に利便を提供することを言います。UBS/Sでは顧客企業が外部に委託する業務(アウトソーシング)全般を対象とします。前述のソリューションプロセス全体を実行することをSI(システムインテグレーション)といいますが、SI自体がお客様から見ればアウトソーシングサービスとなります。勿論SIプロセスの部分実施もサービスとなります。

 また場合によってはUBS/Sビジネス事業者が直接ASP的なサービスを事業として展開することも考えられます。中堅中小企業への適用拡大を意図すればこれは当然の帰結になります。

 しかしUBS/Sは現時点では概念から一歩踏み出したばかりのものです。現実のビジネスを前提としたソリューションのプロトタイピングを皮切りに順次実績を積み重ねることにより具体的な商品に仕上げていくことになります。UBS/Sは仮説検証のプロセスを持つ自律進化型ビジネスモデルといえます。


3. UBS/S実現イメージ


 図1にUBS/Sの実現イメージを示します。図の上段に示すいろんな場所に遍在する機器からアクセスし、中段に示すコアプラットフォームに設定されたビジネスオブジェクト制御に従い、下段に示すいろいろなビジネスサービスやユーティリティサービス、さらにユーザシステムなどを利用することになります。

 このことはネットワーク上でコンピュータを使って実現されるので、eCommerceの世界で開発された各種機能を十二分に活用しております。電話の世界での電話帳にあたるレジストリーや、コンピュータが理解できるXML言語で記述されたレポジトリーなどが好例です。


4. UBS/Sのアーキテクチャ


 図2にUBS/Sのアーキテクチャを示します。このような階層構造を定義することによりサービスやプログラムなどのコンポーネント化が可能となり、バランスのとれた下段に示すいろいろなビジネスサービスやユーティリティサービス、さらにユーザシステムなどが取得し易くなります。ビジネスオブジェクトやコンポーネント相互間を結合する技術として「Webサービス連携」と呼ばれる最新技術を活用します。この技術を採用する最も大きな理由は、厳密なシンタックス(形式)ルールに煩わされることなくセマンティックス(意味)に基づいて疎な結合ができることです。これにより融通無碍なソリューションに大きく近づけるでしょう。

 またネットワークにはインターネットを使うことを基本としますが、最近のIPv6技術やVoIP,さらに無線LANなどの無線アクセス技術はUBS/Sビジネスの効率を大きく改善するものとなるでしょう。

 キーワードのいくつかについて説明します。

(1)お客様の経営上の問題・課題(ビジネスオブジェクト)

 UBS/Sが解決するお客様の経営上の問題・課題をもう少し具体的に説明します。まず顧客企業が扱う製品やサービスが包含されるバリューチェーン(図3参照)に着目します。企業はこのバリューチェーンの全てまたは一部のプロセスに係っています。各企業はこのバリューチェーンの最適化を達成するために、他企業と連携したり、プロセス間の連携を調整したりします。この時にネットワークを活用して最適な取引相手を探したり、各社が所有するコンピュータを活用して情報による自動制御を行ったりすることが解決方法として主流になりつつあります。このときの企業が設定する問題・課題をビジネスオブジェクトと称します。例示してみます。


・間接物品の調達コストを15%カットしたい。
・直接物品の一部をオープン調達して設計期間を縮小したい。
・海外の部品供給業者との間の伝票のやり取りを標準化したい。
・社員間の情報共有を進めたい。
・バリューチェーン内の在庫状況をリアルタイムで経営幹部に知らせたい。
・為替相場の変動を常に把握しておきたい。
・ERP機能の一部を電子調達市場に委ねソフトウエア維持費を軽減したい。
・競争相手の製品価格動向を外交中の営業マンが常時知ることができるようにしたい。

 これらはほんの一部にしか過ぎません。これら課題の共通性に着目して課題解決のサブセットを定義しソフトウエア・パッケージ化したものが販売されていることは前述した通りです。

 またWebサービス連携の持つ相互運用性の優秀さを活用すれば、新旧システムの世代間連携や、シンタックスの異なるデータベース間の連携、他者所有のオンライン資源を活用したオンラインビジネスの開業など「新しい価値を産む関係」というビジネスオブジェクトの類型も出てきます。新しいビジネスモデルの創出機会が存在します。


(2)ビジネスモデル

 ビジネスモデルとはお客様にサービスを提供してその対価を頂戴する仕組みのことをいいます。提供するサービスの定義と採算の取れるサービス対価の設定をしなければなりません。このときQuality、Cost、Timingの3要素の最適均衡を目指します。

 提供するサービスの概念について前述しましたが、UBS/Sを事業とする場合、事業者は、実施するどの活動が最も利益率向上に寄与するかを見定めなければなりません。一般的に上流工程では分析力と構想力が、下流工程では経験に裏打ちされた推測力と行動力が価値を産み出す源泉となるでしょう。事業者の持てる力と将来発揮できるであろう潜在力を把握し、直営で実施する部分とアライアンスで実施する部分とを決めていくことになります。この峻別はUBS/S適用のプロトタイピングを実施する中で順次見極められて行くでしょう。

 サービス対価を決めることは当然ながら事業経営上の最大重要課題です。掛かったコストを積み上げていって価格を決めていくやり方では競争に勝てなくなってきています。大局的な相場観からおよその水準を決め、競争相手に勝てる価格を設定することになります。そして実際にその価格で提供しても適正な利益が確保できなければ意味がありません。技術革新やプロセス革新を取り込んだコストの作りこみが必要となります。どのような革新への挑戦をするかを決めることは勇気のいることですが、UBS/Sの概念はその勇気を引き出してくれるものと自負しております。

 価格水準としては、最新のソフトウエアやハードウエアを適切に選択することで、創設費と3年間のランニングコストを合算して、現在のソリューション価格の1/3以下が十分可能となるでしょう。


(3)適用技術と標準化

 UBS/Sに適用する技術は「eCo-framework」(図4参照)に準拠しているものを優先します。いわゆる「セマンティックス層での相互運用性の確保」と「プラグアンドプレイ」の思想を具現化できる技術を採用します。これを具現している現在の技術の例はXML-Webです。蛇足ですがeCo-frameworkは分散コンピューティングやオブジェクト指向技術さらにインターネット技術に立脚しています。

 また、プログラム言語でコーディングする手間を極力省くための仕組みを取り入れることにします。WSAL、WSPLの構想(図5参照)がそれです。私どもはプログラムベンダーと協力して開発していく予定です。特にWSALではUMLを活用して、ビジネスオブジェクトを階層構造化して記述できる機能を有しており、ワークフローのシナリオを効率良く作成できることを期待しております。

 しかし、UBS/Sはソリューションを前提とした概念であるので、適用する技術に拘泥することはありません。ソリューションの要件を満たせば手段は何でも良い訳です。そのためには常に世界の動向を観察し目利きすることが肝要と思っております。

 技術を採用するときの重要な点に触れておきます。それは標準化もしくはそれに近い技術に着目することです。標準化とはデファクト・スタンダードを意味します。これを活用することで、仕入れ価格や、技術仕様および実現したパッケージの維持管理コストの低減、さらには相互運用性確保の容易さを手に入れることができます。もっとも慎重になりすぎて着手が遅れると競争相手の後塵を拝することになるので、常に先手を打つ心掛けが必要です。

 標準化についてはビジネスプロセスそのものを対象とする動きがあります。エレクトロニクス業界の電子商取引手順を世界的に標準化しようとする「ロゼッタネット」(図6図7参照)の活動がそれです。UBS/Sを魅力のあるものにするためのヒントが多く含まれています。

 世界的に展開されるデファクト・スタンダード活動にも積極的に関与すれば、自ずと世界の潮流に乗ることができます。


(4) 協業

 UBS/Sは多様なビジネスオブジェクトを対象にして、最先端の技術やソリューション・パッケージを活用して実行していくので、ビジネスオブジェクトの種類やソリューションプロセス、さらに技術やプログラム毎に、他者と連携しながらサービスを提供していくことになります。

 協業を円滑に進めるためには、事前に仕様を明確に定義したり重要事項は文書で確認したり、さらには契約に関する法制度の確認をしたりするなど確実なコミュニケーションができる行動様式を確立せねばならないでしょう。ISO9001やTQC活動の上にUBS/Sのビジネスプロセスを重ねていくことでUBS/Sビジネスの品質は必ず向上していくでしょう。


5. おわりに


 現在、以下に示すような事例の実現にUBS/Sを活用する検討を始めております。

(1)個人が必要とする各種Webサイトの情報を一つの画面に編集して見せること。すなわちPersonal Information Management。
(2)アカウントの異なる複数のサイトに対し一つのアカウントでアクセスするAccount Aggregation。
(3)異なる生い立ちで生成された各種情報通信システムの連携。
(4)異なる言語サイトの情報を一つの言語に統一して表示するサイト情報翻訳。
(5)相互関係がスパゲティ状になった社内システムの混乱解消。
(6)多国間にまたがる情報通信システムの相互連携。
(7)一時的に必要となる情報通信システムの構築。

 現時点では極めて雑駁な提案しかできておりませんが、提案先のお客様の反応はすこぶる良く、私どもは心の昂ぶりを押さえきれない状態です。Quality、Cost、Timingの3要素の最適均衡を不断に追求していくためには、ソリューションの経験を積み重ねるとともに、その経験に裏打ちされた目利き能力を持ってUBS/S開発ツールを充実させなければなりません。この昂ぶりをこの面に振り向けていきたいと思います。

2001/12/26

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